第一印象と概要
正直「DISTORTION」って文字を見ただけで、ちょっと身構えてしまった。バリバリに歪んで、タッチのニュアンスなんて無視してくるタイプかな、と。でも実際に鳴らしてみたら「あれ?」と思わされた。FENDER FULL MOON DISTORTION、見た目こそ無骨だけど、意外と表情が豊かで扱いやすい。
アルミ削り出しの筐体に、LEDで光るノブ、Fenderアンプを彷彿とさせるAMP JEWELライト付き。電池交換はマグネット式の裏蓋で、工具なしでもOK。ライブ現場やスタジオでの実用性も考えられている点が好印象だ。定価は約14,000円前後と、意外と手が出しやすい価格帯に収まっている。
見た目は無骨でも、細部にはフェンダーらしい遊び心と使いやすさが盛り込まれている。例えばLED付きノブは暗いステージ上でも視認性が高く、プレイヤー思いの設計と言える。また、電池交換がツールレスでできるというのも地味に嬉しいポイントだ。
サウンドの幅と操作性

コントロールは6ノブ構成。LEVEL、GAINに加え、BASS、MIDDLE、TREBLE、HI-TREBLEという4バンドEQが用意されていて、音作りの自由度が高い。さらにTEXTUREスイッチ(対称/非対称クリッピングの切り替え)とBITEスイッチ(高域のアタック感を増す)が備わっていて、細かいキャラクターの調整も可能。
歪み量はかなり幅広く、ゲイン最小ではクランチ寄りのクラシックロックサウンド、上げていけばモダンロックやスラッシュ系にも対応できる。Chris Buck氏が言っていたように「意外とクリーン寄りのセッティングでも気持ちいいトーンが出る」のが印象的だった。
EQで中域をブーストして太さを出すもよし、高域を削って落ち着いた音に仕上げるもよし。用途に応じた音作りがしやすく、ジャンルを問わず幅広く活躍できるポテンシャルがある。ハムバッカーでのブリッジミュートもザクザク決まるし、シングルコイルでの繊細な表現も活かせる。
テクスチャーやバイトスイッチをうまく使えば、アタックの強さやピッキングの立ち上がりをコントロールできて、タッチレスポンスも良好。実際に手元のボリュームを絞ると、クリーンに近づくような表現力がある。こういうところが、ただの“爆音系ディストーション”とは違うところ。
ブーストとEQの効き方
内蔵ブーストはゲイン後段に配置されていて、音色を変えずに音量を押し上げる。最大+12dBまで持ち上がるので、ソロやバッキングの切り替えに便利。シンプルに音が「前に出る」感じがあって、これはステージ上でも安心感がある。
EQはどの帯域もきちんと効いてくれる印象。特にHI-TREBLEノブはローパスフィルターのような動きをしてくれて、高域の“ギラつき”や“スパークル感”を調整できる。ベースを上げすぎると少しモコモコするけど、絶妙なバランスを取ればかなり芯のある音になる。中域(MIDDLE)はギターの存在感を左右する重要なポイントで、カットしすぎると一気に埋もれる。全体的にEQの反応はナチュラルで、ちゃんと“使える音”が出せる設計だと感じた。
EQノブそれぞれの効き方が素直で、効かせすぎても破綻しない設計がされているのは好印象だ。特にHI-TREBLEの調整幅が広く、システム全体の高域の出方をかなりコントロールできる。これはモダン系のアンプやキャビネットとの組み合わせにも対応しやすい。
メタル用途では…?

Will it Chug?でおなじみのYouTuberによるテストでも、「あと一歩ゲインが欲しい」というコメントはあった。確かに、ゴリゴリのデスメタルを狙うにはちょっとマイルドすぎるかもしれない。でも、ブーストとアンプのゲインを組み合わせれば、実用的なメタルサウンドも作れる。
それよりも個人的には、リードやバッキング、そしてクラシック〜モダンロックあたりのジャンルでの使いやすさに魅力を感じた。ピッキングにちゃんと反応するし、EQでの追い込みもしやすい。硬派だけど、意外と器用なやつ。
実際、ハイゲイン=メタルという固定観念に縛られず、あえてゲインを抑えて中域を前に出すことで、よりオーガニックなロックトーンに仕上げることもできる。ペダル単体での完成度も高いが、アンプや他のエフェクターと組み合わせることで一層魅力を発揮するタイプだと感じた。
セッティング例と使い方のアイデア
実際にこのペダルをどう使うか。レビュー動画などでも語られていたように、FULL MOON DISTORTIONはEQやスイッチの組み合わせ次第で様々な表情を出せるのが特徴。たとえばUTM MUSICさんの動画では、ギタリスト春畑道哉さんがこのペダルを使って制作したという「Full Moon Boogie」の再現を試みていた。
そのときのセッティング例は、TREBLEを少し上げ気味、MIDとBASSはしっかり出して音の芯を作り、HI-TREBLEは控えめに。TEXTUREは非対称、BITEはオンにして、アタックの立ち上がりをシャープにしていたのが印象的だった。
また、あえてゲインを下げて9時〜10時あたりにして、クランチ寄りのナチュラルなドライブサウンドを作るのも面白い。リードプレイにはBOOSTスイッチを併用し、音量だけをぐっと前に出す形が使いやすい。
ジャンルやスタイルごとに、ゲインの位置やEQの山谷を変えるだけで印象が大きく変わるペダル。機材オタク的に言えば「いじってるだけで楽しいやつ」だ。
Q&A

Q. バッテリー駆動はできますか?
A. はい、FENDER FULL MOON DISTORTIONは9V電池で駆動可能です。電池ボックスはマグネット式のフタになっていて、工具を使わずに簡単に交換できるのも嬉しいポイントです。ライブやリハで電源が取りづらい場面でも柔軟に対応できます。
Q. このペダルはどんなジャンルに向いていますか?
A. 基本はハイゲイン系ですが、クランチ〜クラシックロック、モダンロック、リードトーンまで幅広く対応可能です。EQとスイッチの組み合わせで細かく音を追い込めるため、意外とジャンルを問いません。
Q. ブーストはどんな効果がありますか?
A. ブーストはゲイン後段に配置されており、トーンはそのままに音量だけをしっかり持ち上げてくれます。ソロやバッキングの切り替えに最適で、最大+12dBの増幅が可能です。
Q. TEXTUREスイッチとBITEスイッチって何?
A. TEXTUREは対称/非対称クリッピングの切り替え。歪みの質感に変化を加えます。BITEは高域にゲインを足してアタック感を強調する機能。特にピッキングの輪郭をハッキリ出したいときに有効です。
Q. HI-TREBLEノブの役割は?
A. HI-TREBLEはローパスフィルターのような働きをし、高域のギラつきを調整できます。上げればフルレンジの煌びやかなトーンに、下げれば高域を落ち着かせたマイルドな音に。これがあることでトーンの最終調整がしやすくなります。
Q. 他のフェンダー製ペダルとはどう違いますか?
A. フェンダーの中ではかなり珍しい“本格的ハイゲインペダル”で、FULL MOONはその第一歩とも言えるモデルです。ギター誌や多くのレビューで「タッチに反応するハイゲイン」という評価を受けています。
Q. つまみのLEDは消せますか?
A. はい、ノブについているLEDイルミネーションはオン/オフの切り替えが可能です。暗いステージで視認性を高めたいときには便利ですが、点灯が気になる場面では消灯することもでき、状況に応じて使い分けられます。
Q. 新品価格はいくら?
A. 日本国内では新品でおおよそ14,000円前後で流通しています。見た目も高級感があり、細部の設計も凝っているため、価格以上の価値を感じるという声も多いです。
まとめ

FENDER FULL MOON DISTORTIONは「ハイゲイン」って言葉の先入観で損してる気がする。確かに歪む。でも、その中にある“繊細さ”や“コントロールのしやすさ”がこのペダルの本質だと思う。
激しい歪みを求める人だけでなく、ニュアンスを大切にする人、ジャンルをまたいで使いたい人にもフィットする1台。価格も約14,000円前後と、試してみるにはちょうどいいレンジ。ペダルボードの歪み枠にひと味違う選択肢を加えたいなら、これは意外とアリかもしれない。
エフェクターって“クセの強さ”が魅力だったりもするけど、このペダルはその逆。クセが強すぎず、でも個性がないわけでもない。つまり“ちょうどいい”やつ。ギターを変えても、アンプを変えても、場面を選ばずにちゃんと応えてくれる。そんな頼れる1台だった。
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