ラットサウンドの魅力を徹底解剖。エレキギターのディストーションペダルの中でも、長年にわたり愛され続けているのが「ProCo RAT2」です。シンプルな3ノブ設計ながら、クリーンブースターからオーバードライブ、ディストーション、さらにはファズ的なサウンドまで作り出せる万能なペダルとして、多くのギタリストの足元を支えてきました。
今回は、RAT2の特徴や使い方、ヴィンテージモデルとの違い、そして実際に使ってみた感想を交えながら、このペダルの魅力を徹底解説していきます。
① ProCo RAT2の基本スペックと特徴
ProCo RAT2は、1978年に登場した初代RATの流れを汲むディストーションペダルで、1988年にリリースされたモデルです。シンプルなコントロールながら、幅広いサウンドメイクが可能な点が特徴です。
RAT2の基本スペック
●コントロール: Distortion(歪み)、Filter(フィルター)、Volume(音量)
●電源: 9V ACアダプターまたは9V電池
●接続端子: 標準的な1/4インチのインプット・アウトプット
●サイズ・重量: 頑丈なメタル製の筐体(象が踏んでも壊れないほど頑丈)
●視認性の高い赤色LED搭載
●傾斜のある筐体デザインで踏み込みやすい設計
特徴的なサウンドRAT2の最大の特徴は、その独特な歪みのキャラクターです。単なるディストーションではなく、オーバードライブやファズの要素も持ち合わせており、セッティング次第でさまざまな音を作り出せます。
また、RAT2は高域をカットする「Filter」ノブを搭載しており、これが一般的な「Tone」ノブとは逆に機能する点が特徴的です。通常のペダルでは右に回すと高域が強調されるのに対し、RATのFilterは右に回すほど高域がカットされ、ウォームでマイルドなオーバードライブサウンドを作り出します。左に回すとブライトで際立つ、ディストーションらしい鋭いサウンドに変化します。
どんなジャンルにもマッチするオールラウンドなサウンドがRAT2の魅力です。クリーンアンプに接続してメインの歪みとして使用するのはもちろん、オーバードライブしたアンプに接続し、リードプレイ時のブースターとしても最適です。
RAT2の登場は、次世代のRATシリーズに新たな歴史を刻むこととなりました。オリジナルのデザインをベースにしながら、視認性の高い赤色LEDや、踏み込みやすい傾斜のある筐体デザインを採用し、実用性を向上させています。

② RAT2のサウンドを徹底解析
セッティング次第で幅広い歪みが作れるRAT2の魅力は、そのセッティング次第で幅広いサウンドを作り出せる点にあります。ここでは、具体的なセッティングと音のキャラクターを細かく紹介します。
① クランチ・ブースターとしての使い方
RAT2は、ゲインを控えめに設定することで、クリーンブースターやクランチペダルとしても活用できます。具体的な設定は以下のとおりです。
・Distortion(歪み): 9時〜10時
・Filter(フィルター): 12時〜3時
・Volume(音量): 必要に応じて調整
この設定では、ギターのボリュームを少し絞ることでクリーンに近いサウンドが得られ、ピッキングの強弱でクランチとクリーンを切り替えることが可能になります。特にストラトキャスターやテレキャスターなどのシングルコイルピックアップとの相性が抜群です。
② 王道のディストーションサウンド
RAT2といえば、太く荒々しいディストーションサウンドが特徴です。リードギターやリフを際立たせるための定番設定を紹介します。
・Distortion(歪み): 12時〜3時
・Filter(フィルター): 10時〜12時
・Volume(音量): 必要に応じて調整
この設定では、クラシックロックやハードロックに最適な分厚い歪みが得られます。特にハムバッカーを搭載したレスポールなどのギターと組み合わせると、さらに迫力のあるサウンドになります。
③ ファズライクなサウンドも作れる!
RAT2は、ゲインを最大にすると、ファズに近い荒々しいサウンドを生み出します。以下の設定を試してみてください。
・Distortion(歪み): 3時〜最大
・Filter(フィルター): 9時〜10時
・Volume(音量): 必要に応じて調整
このセッティングでは、ビッグマフ系の分厚いファズサウンドに近づきます。特にリアピックアップを使用すると、ギターのボリューム操作によって歪みの強さをコントロールしやすくなります。
③RAT2を愛用するギタリストたち – 多彩な音楽ジャンルで活躍
RAT2は、そのユニークな歪みとシンプルながら奥深いサウンドメイクの幅広さで、多くのギタリストに愛されてきました。ロック、ジャズ、オルタナティブ、ブリットポップといった異なるジャンルのアーティストたちが、それぞれのスタイルに合わせた使い方をしています。
ジェフ・ベック (Jeff Beck)
ジェフ・ベックは1980年代にRATを愛用し、クリーンとオーバードライブの中間的なトーンを作り出していました。ゲインを控えめにし、アンプのナチュラルな歪みとブレンドすることで、繊細なピッキングニュアンスを活かしたダイナミックなサウンドを構築していました。
サーストン・ムーア &リー・ラナルド
オルタナティブロックを牽引したSonic Youthの2人は、RATのノイジーでアグレッシブな歪みをフル活用していました。ゲインを最大にしてファズ的なサウンドを生み出し、独創的なコードワークやフィードバックを駆使したエクスペリメンタルなサウンドを構築していました。
ジョン・スコフィールド (John Scofield)
ジャズ/フュージョンの巨匠ジョン・スコフィールドもRATを使用し、ゲインを控えめにしたオーバードライブ的な設定で温かみのあるトーンを作っていました。フィルターを強めにかけ、マイルドでスムーズな歪みを得ることで、ジャズとロックを融合させた独特のサウンドを確立しています。
ノエル・ギャラガー (Noel Gallagher) [Oasis]
Oasisのノエル・ギャラガーは、RATのパワフルなディストーションサウンドを活かし、ブリットポップの象徴的な分厚いギターサウンドを作り出しました。リズムギターの厚みを増し、ミドルを強調したロックなトーンを特徴としています。
カート・コバーン (Kurt Cobain) [Nirvana]
ニルヴァーナのカート・コバーンは、高めのゲイン設定でRATを使用し、荒削りで力強いグランジサウンドを作り出しました。シンプルなセッティングながら、大音量でアンプをプッシュすることで、ダイナミックでインパクトのあるトーンを生み出していました。
④ヴィンテージRATと現行品の違いとは?

RATシリーズは長い歴史を持つディストーションペダルであり、その中でもヴィンテージモデルと現行品RAT2の違いは、多くのギタリストの間で議論され続けています。特に、1980年代に製造されたオリジナルRATと、現在販売されているRAT2では、回路やサウンドのキャラクターに明確な違いがあり、それが市場価格にも反映されています。
ヴィンテージRATは、1978年に登場した初代モデルから1990年代まで製造されていたものを指します。この時期のRATは、歪みのキャラクターが非常に荒々しく、抜けの良いサウンドを持っているのが特徴です。特に1980年代に生産された「ホワイトフェイスRAT」や「ブラックフェイスRAT」は、多くのプロミュージシャンに愛用され、その独特なトーンが支持されています。サウンドの特徴としては、シャープでエッジの効いた歪みが得られ、ピッキングのニュアンスをしっかりと表現できる点が挙げられます。また、ヴィンテージRATにはLM308Nというオペアンプが搭載されており、これが倍音豊かで芯のあるサウンドを生み出す要因となっています。ゲインを最大にすると、一般的なディストーションを超えてファズのような分厚い歪みも生み出すことができ、クラシックロックやオルタナティブ、さらにはサイケデリックなサウンドにも適しています。現在、ヴィンテージRATは中古市場で3万円から6万円程度の高値で取引されており、状態が良いものに関してはさらに高額になることもあります。コレクターズアイテムとしての価値も高く、希少性も相まって根強い人気を誇っています。
一方、現行のRAT2は1988年に登場したモデルをベースに改良が加えられ、現在も生産が続いているモデルです。ヴィンテージモデルのサウンドを受け継ぎながらも、より実用性を向上させた設計が施されています。サウンドの傾向としては、ヴィンテージモデルに比べるとローエンドが強調されており、全体的にまとまりのある音になっています。そのため、高域の暴れが抑えられ、バンドアンサンブルの中でより馴染みやすい歪みとなっているのが特徴です。また、現行RAT2にはLM308Nの生産終了に伴い、新たにOP07というオペアンプが採用されています。この変更により、ヴィンテージモデルに比べると音のエッジがやや抑えられ、スムーズで落ち着いた歪みになっています。
さらに、現行RAT2は実用性の向上も図られています。LEDインジケーターの追加により、ペダルのON/OFFが視認しやすくなったほか、傾斜のある筐体デザインによって踏みやすさが向上しています。価格面では、現行RAT2は新品で約16,000円前後、中古市場では10,000円前後と、ヴィンテージモデルに比べて非常に手頃な価格で入手することができます。そのため、RATを初めて試してみたいというプレイヤーにとっても、手が出しやすいモデルとなっています。
⑤RAT2 総評
RAT2は、クリーンブースターからオーバードライブ、ディストーション、さらにはファズに至るまで、幅広いサウンドを生み出せる万能なエフェクターです。
シンプルな3ノブ構成ながら、FILTERコントロールによるトーン調整の幅が広く、細かい音作りが可能な点が特徴的です。
特にバンドアンサンブルにおいては、低音を抑えつつミッドレンジを際立たせる特性が活き、ギターの音をしっかりと前に出すことができます。ソロ時のブースターとしても優秀で、安定した抜けの良いトーンを作ることができるため、多くのギタリストに支持され続けています。
また、ヴィンテージモデルとの違いも興味深く、現行のRAT2はローエンドが強調され、少し落ち着いた音になっているのに対し、80年代のヴィンテージRATはよりシャープで鋭いサウンドを持っています。ヴィンテージモデルは市場で高額取引されているものの、現行モデルでも十分にRATの魅力を体感できる点は嬉しいポイントです。
もし「ディストーションペダル選びに迷っている」「王道のサウンドを試してみたい」と考えているなら、RAT2は間違いなくチェックすべき一台です。セッティング次第で様々なジャンルに対応できるため、一つ持っているだけで多くのシチュエーションで活躍するでしょう。
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