
「最近、音作りがマンネリ気味だな……」と思っていたある日、ふと立ち寄った楽器屋で目に飛び込んできたのが、SuhrのEclipseでした。シンプルながら存在感のあるルックスに惹かれて思わず手に取り、その日のうちに家で動画やレビューを何度も見返しては「どうしようかな……」と悩む日々が始まりました。新品価格はおよそ6万円。安い買い物ではありません。
歪エフェクターとしては高級品の部類に入ります。絶妙に迷わせてくる価格帯。中古市場を見ても、5万円前後が相場のようです。それでも、「これがあれば、もう他の歪みペダルは要らないかもしれない」という予感に背中を押されます。

Suhr Eclipse:Suhrとはどんなメーカー?

Suhr(サー)は、アメリカ・カリフォルニアに本拠を置くハイエンドなギター・エフェクター・アンプのメーカーです。創業者であるジョン・サー(John Suhr)は、もともとFenderやRudy’s Musicのカスタムショップで経験を積んだ技術者で、そのノウハウを活かして1997年に自身のブランドを立ち上げました。
Suhr製品の特徴は、何よりも「高い品質と現場での実用性の両立」にあります。ギターにおいては美しい仕上げと高精度なネックジョイント、エフェクターにおいては現場で即戦力となる設計と操作性が高く評価されており、世界中のプロミュージシャンからも厚い支持を受けています。Suhr Eclipseは、そんな同社の哲学が色濃く反映された歪みペダルの代表格です。
Suhr Eclipse:外観の高級感
開封した瞬間から「おっ」と声が出るほどの仕上がり。高級感ある筐体にスムーズなノブ、裏面まで整った加工。Suhr製品に共通する“丁寧な仕事”が、このEclipseにも感じられます。触っているだけでも所有欲が満たされるような質感で、まるで工芸品のような存在感を放っています。
しかもEclipseには、いくつかの限定カラーが存在するというのもポイント。今回手にしたのは、通常の赤ではなく、限定生産のブラック。中身の回路は通常版とまったく同じですが、見た目の特別感が強く、コレクター心や所有欲をグッとくすぐってきます。Suhrらしい美意識の高さが、こうした細部からも感じられる点です。
ちなみに、赤バージョンはすでに生産終了しているため、現在は中古市場でのみの入手となります。数年前まではもう少し安く、4万円台前半で見かけることもあったような記憶がありますが、最近ではその数も少なくなり、現在の中古価格帯はおおむね5万円前後まで上昇しています。人気の高さと品質の高さ、そして市場での流通量の減少が反映された価格と言えるでしょう。
一方、新品での購入を検討するならば、現時点ではブラックをはじめとする限定カラーが流通している状況です。つまり、外観の好みだけでなく、入手ルートや価格を含めた“選択の判断”が必要になってくるわけです。
こうした細やかな仕様の違いや製造背景にまで目を向けた製品作りからは、Suhrというブランドがいかにプレイヤーに対して真摯であるかが伝わってきます。外観からすでにその哲学がにじみ出ている──そんな印象を強く残すペダルです。

出典:サウンドハウス
Suhr Eclipse:完全独立の2チャンネル
Eclipse最大の特徴。それは、完全に独立した2つの歪みチャンネルが搭載されていること。ありがちな「片方はブーストだけ」みたいな構成じゃなくて、左右まったく同じ回路が2系統分あるという仕様。
例えば、左チャンネルはローゲイン・リズム用、右チャンネルはハイゲイン・リード用といった使い方が自然にハマります。それぞれに独立した3バンドEQがあるので、音色のキャラ分けも完璧に可能。ライブでも即座に切り替えられて、全く異なるサウンドに飛べるのは大きな魅力です。
さらに内部スイッチによって、どちらのチャンネルが起動時にオンになるかを設定できたり、スイッチャーで遠隔操作できるFX Link端子がついていたりと、ライブやレコーディングの現場でも即戦力になる細かい工夫がされています。こうした実践的な仕様が、プロに選ばれる理由のひとつなのかもしれません。
Suhr Eclipse:音の重心を決めるVOICE

出典:サウンドハウス
中央に配置された「VOICE」ノブは両チャンネル共通のトーン調整。EQとは違い、音の重心や全体的なトーンバランスに作用します。
アンプやギターの個性に合わせて、このVOICEで全体のトーンを整える。明るすぎるアンプにはVOICEを下げて落ち着いた音に。逆にこもる音にはVOICEを上げてヌケの良いサウンドへ。
EQの効きが良いこともあり、ボイスとの組み合わせで「同じ設定でもまったく違う音に聞こえる」ほどの変化が作れます。繊細かつ大胆に音作りができるのは、大きな魅力です。このVOICEノブがあるおかげで、どんな環境でも柔軟に対応できる安心感があります。
Suhr Eclipse:驚くほどアンプライク実際に音を出した瞬間、「あ、これアンプの歪みだ」と思ってしまうようなリアリティ。コンプ感が自然で、ピッキングのニュアンスもそのまま反映される感覚は、かなり本物志向。
さらに18V駆動にするとヘッドルームが広がり、空気感まで含めた立体的なサウンドに。まるでスタックアンプを操作しているような感覚になります。空間系との相性も良く、ブースト的な使い方でも真価を発揮します。歪みペダルというより、“もうひとつのアンプチャンネル”という言葉がしっくりきます。
Suhr Eclipse:TSもトランスペアレントも
ローゲイン時のセッティング幅がとにかく広く、音作りの自由度がかなり高いのがEclipseの大きな魅力のひとつです。
例えば、TS系のように中域をふくよかに持ち上げたウォームなサウンドを作ることもできれば、トランスペアレント系のように原音を活かしつつクリーンブースター的に抜けの良さを加えるセッティングも可能。こうした特性を一つのペダルで実現できるのは、なかなかに珍しいです。
さらに、3バンドEQの効きが非常に素直で繊細なため、ほんの少しノブを回すだけでもサウンドキャラクターが大きく変化します。狙ったトーンに対して微調整していく工程がとても楽しく、「もうちょっとだけミッドを足そう」「トレブルをほんの少しカットしてみよう」と、つい夢中になってしまうような奥深さがあります。
この1台でカバーできるジャンルは本当に幅広く、ブルース、フュージョン、オルタナティブから、しっかり歪ませたハードロックまで対応可能。リードトーンだけでなく、コードバッキングの鳴りやアンサンブルの中での立ち位置までコントロールしやすいのもポイントです。
モダンでタイトな音から、ややダークでビンテージ寄りな響きまで、すべてを手元で操れる──そんな信頼感と柔軟性を兼ね備えたペダルです。
Suhr Eclipse:Q&A

Q. Suhr Eclipseってどんな人に向いている?
A. アンサンブルの中でしっかり自分の音を出したい人、歪みペダル1台で幅広いジャンルをカバーしたい人にぴったりです。ブルースからハードロックまで、音作りの自由度はかなり高いです。
Q. トランスペアレント系ってどういう意味?
A. 「原音をなるべく変えずに、抜けや音圧を加える」ようなタイプのエフェクトのことです。Suhr Eclipseは、そういった透明感のあるブースト的な使い方にも対応できます。
Q. 中古市場ではいくらぐらい?
A. 状態にもよりますが、概ね5万円前後で見かけることが多いです。新品は6万円前後なので、多少お得感はあるものの、それでも“高級ペダル”の部類には変わりません。
Q. 限定カラーってあるの?
A. あります。基本は赤ですが、限定色でブラックやゴールドがあります。中身は同じでも見た目の違いで特別感が出るので、コレクター心をくすぐられます。
Q. 18V駆動にすると何が変わる?
A. ヘッドルーム(音の余裕)が広がるので、ダイナミクスが豊かになり、よりアンプライクな質感になります。クリーン〜クランチ系のニュアンスも際立ちやすくなります。
Q. スイッチャーでの制御は可能?
A. 可能です。FX Linkという端子が用意されていて、スイッチャーと連携することでライブでもシームレスなチャンネル切り替えが可能になります。
Q. 2チャンネルの歪みって何が便利なの?
A. たとえば、リズム用にローゲイン、リード用にハイゲインと、それぞれセッティングを使い分けられるのが大きな魅力です。EQも別々に調整できるので、実質アンプ2台を切り替える感覚で使えます。
Q. TS(チューブスクリーマー)系の音も出せる?
A. 中域をぐっと持ち上げて、ややコンプレッションをかけるような設定にすれば、それっぽい音も十分出せます。ローゲインの追い込みがしやすいのもEclipseの強みです。
Suhr Eclipse:迷う前に試してほしい
Suhr Eclipseは、アンプライクな質感と2チャンネル仕様の自由度を併せ持つ、まさに“完成されたディストーションペダル”。
モダンな音なのに、奇をてらわず、しっかりアンサンブルに馴染む。それでいてEQの効きやVOICEの調整で自分好みのキャラを出すこともできる。ライブでも録音でも活躍できる汎用性の高さが光ります。
プロの現場でも重宝されている理由がよくわかる1台です。ローゲインからハイゲインまで幅広く対応し、操作性もシンプルながら奥深い。「とにかく良いディストーションが1台欲しい」そんな人には迷わずおすすめしたいペダルです。
Suhrというブランドが長年培ってきた技術と美学が、この1台に凝縮されています。Eclipseがあることで、日々の音作りに新しい可能性が生まれる──そんな感覚を味わわせてくれるペダルです。気がつけばいつもボードの中心にいる、そんな存在になるかもしれません。

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