
正直、最初は読み方から迷いました。Tsakalis Audioworks(ツァカリス・オーディオワークス)?ギリシャのメーカー?ちょっと馴染みがない名前ですが、どうやら「Room #40」はマーシャル系の歪みペダルで、しかもPLEXIとJCM800の両方をカバーするという触れ込み。
見た目も黒金のカラーリングでそれっぽい雰囲気が漂っています。ツマミの数も多く、しかも聞き慣れない名前が並んでいて、これはちょっとクセのある製品かもしれない……そんな第一印象を持ちつつ、実際に試してみました。
Room #40:概要と特徴

ギリシャ製ハンドメイドエフェクター
Tsakalis Audioworksはギリシャ・アテネに拠点を置くハンドメイド・ブランドで、Room #40はその中でも特に評価の高い代表モデルです。いわゆる”Marshall in a Box”(マーシャル・イン・ア・ボックス)と呼ばれるジャンルの中でも、非常に完成度の高い製品であり、伝説的なマーシャルアンプのトーンを1台のペダルに凝縮しています。
2つのMarshallモードを切り替え可能
本機の特徴的な点は、トグルスイッチによって「19」と「22」の2つのモードを切り替えられることです。19はPLEXIモード(1959/1987系)で、オープンでブライトなサウンドが得られます。一方、22はJMP/JCM800(2203/2204系)モードで、コンプレッションが強く、よりハイゲインなサウンドを楽しむことができます。どちらのモードも実機アンプの挙動を丁寧に再現しています。
Variac:電圧を変えるコントロール

Variacノブは、回路に供給する内部電圧を7.5Vから21Vまで自由に調整することができます。これにより、サウンドのキャラクターを電源レベルに応じて劇的に変化させることが可能になります。たとえば電圧を下げると、コンプレッションが強まり、いわゆる“たるみ”のある、ヴィンテージ・マーシャル的な粘りのある歪みに変化。まさにエディ・ヴァン・ヘイレンのブラウンサウンドを想起させるようなトーンが得られます。
逆に電圧を上げていくと、音はよりオープンになり、アタック感が増して、タイトで現代的なクランチサウンドに。ピッキングに対する反応も鋭敏になり、ソロや刻みの輪郭がはっきりと立ち上がります。このVariacノブは、単なる“おまけ”機能ではなく、音作りの雰囲気を大きく左右する「キモ」のような存在であり、このペダルの最大の特徴のひとつといえるでしょう。
クラシックなEQとPresenceノブ
3バンドEQ(Treble / Middle / Bass)に加えて、Presenceノブを搭載。TrebleやMiddleはマーシャルアンプに馴染みのある挙動を見せますが、Presenceは正午より下でハイカットとして、正午より上ではハイブーストとして動作します。アンプやギターに合わせて音の「抜け」や「まとまり」を調整できるため、どんなセットアップでも理想的なトーンに近づけることができます。
Volume 1 / Volume 2

RRoom #40では、Volume 1とVolume 2という2つの独立したボリュームノブが設けられており、その機能はモードによって大きく変化します。まず、PLEXIモードでは、これらのノブはそれぞれPLEXIアンプのTrebleチャンネルとNormalチャンネルに対応しており、実機のマーシャルアンプでよく行われる「2つの入力チャンネルをパッチケーブルでつないで音をブレンドする」ような使い方が、このペダルでも再現されています。
Volume 1を上げると高域が鋭くなり、よりジャリっとしたマーシャルらしさが前に出てきます。逆にVolume 2を上げるとロー寄りの音になり、全体の音が太く、まろやかになります。この2つのバランスによって、クリーン寄りのクランチから中域に厚みのあるドライブまで幅広いサウンドを作り出すことができます。
JCMモードではその挙動が一変します。Volume 1はプリゲインとして機能し、実質的に歪みの強さをコントロールするノブとなります。Volume 2は「Body」ノブに切り替わり、こちらは低域の密度や太さを調整する役割を担います。たとえばVolume 2(Body)を下げればタイトで引き締まったローが得られ、逆に上げると厚みのあるパワフルなローエンドになります。まるで実際のアンプのトーン調整のように、細かいニュアンスまで詰めていける設計です。
この2つのボリュームノブは、単なる音量調整ではなく、それぞれのモードにおいて異なる役割を持つ“音色成形ツール”のような存在です。初見では少し混乱するかもしれませんが、使いこなすほどに音作りの自由度が広がっていく、非常にユニークで奥深い仕組みです。
ブースト機能の活用

Room #40には独立したBoostスイッチも搭載されており、必要な場面で瞬時にゲインと音量を押し上げることができます。Boostは単なる音量アップにとどまらず、ミッドやハイの押し出し感も強化されるため、ソロやブレイクでの存在感が一気に向上します。ブースト量はペダル裏面の小さなトリマーで細かく調整可能で、自分の演奏スタイルやアンプ環境に合わせたチューニングが行えます。ライブでは事前に設定しておくことで、即戦力として頼りになる機能です。
Room #40:サウンドレビュー

クリーンアンプでも“あの音”が出る
Fender系のクリーンアンプに接続した状態でも、まるでマーシャルアンプそのもののような、鋭くエッジの効いたサウンドが確認できました。単なる“マーシャル風”ではなく、ピッキングのニュアンスに対する鋭いレスポンスや、ギターのボリュームノブ操作への追従性は本当にリアルで、プレイヤーの表現をダイレクトに再現してくれる印象です。
トランジスタアンプに接続しているとは思えないほどの真空管的な立体感や奥行きが得られ、マーシャル系アンプのダイナミクスをそのまま再現しているかのような感覚があります。クリーンアンプを母艦にしても“あの音”がちゃんと出せるという点は、このペダルの大きな魅力の一つでしょう。
Plexiモードの魅力
19モード、いわゆるPLEXIモードでは、ヴィンテージ・マーシャルらしいジャンプ入力的なチャンネルブレンドが忠実に再現されています。Volume 1がトレブルチャンネル、Volume 2がノーマルチャンネルに対応しており、それぞれの音色を好みに合わせてブレンドすることで、幅広いクランチサウンドを構築できます。
Volume 1を上げてVolume 2で厚みを足すなど、PLEXIを知るプレイヤーにはおなじみの使い方ができ、立体的で存在感のあるトーンが生まれます。高域の抜けと中域の乾いた質感はまさにPLEXIの醍醐味。さらにブーストをONにすると、滑らかにサステインが伸び、リードトーンとしても十分通用するゲインレベルが得られます。
JMP / JCM800モードの厚み
22モード、つまりJMP/JCM800系のモードに切り替えると、PLEXIモードより明らかにゲインが上がり、コンプレッションも強くなってきます。ここではVolume 2が「Body」ノブとなり、ローエンドの量感をきめ細かく調整することが可能になります。このBodyノブを活用することで、タイトなローからズッシリと重厚なローまで幅広く対応可能。
結果として、メタルやハードロックに最適な、粘りのある中域と迫力ある低域が共存するサウンドに仕上がります。特に、ブーストを併用することで、80年代の改造マーシャルに匹敵するようなハイゲイン・トーンを得ることができ、リードでもバッキングでも押し出しの強いサウンドを楽しめます。
VariacとBoostの活用
このペダルの肝のひとつがVariacコントロールです。Variacノブを少し回すだけでもサウンドキャラクターが大きく変化し、低電圧設定ではサウンドがやや飽和気味になり、滑らかでスムーズなコンプレッションが得られます。まさにブラウンサウンドのようなニュアンス。一方、高電圧に設定すれば、立ち上がりの速い、ピッキングに対して鋭敏なレスポンスが得られ、タイトでモダンなトーンに変化します。
さらにBoostスイッチは、バンド演奏時にソロを際立たせるための一手として非常に効果的。Boostは単なる音量増加にとどまらず、ミッド〜ハイの押し出しを強めてくれるため、サウンドの抜けが一気に良くなります。ブースト量は裏面のトリマーで微調整可能で、自分のセッティングに合わせて最適な状態にチューニングできるのもポイントです。
Room #40:気になる点・惜しい点

EQやPresenceの効き方にクセがある
TrebleやMiddleなどのEQは素直に効きますが、PresenceやBodyノブはセッティングや環境により扱いに癖があるように感じます。特にアンプやキャビネットの種類によって効き方が大きく変わるため、最初は慣れが必要かもしれません。
ブースト量調整が裏面トリマーのみ
Boost機能は非常に便利ですが、その量を調整するためには底面の小さな穴からトリマーにアクセスする必要があります。ライブ中に直感的に調整するのは難しく、事前のセッティングが求められます。
小型筐体ゆえの取り回し
筐体自体は非常にコンパクトでエフェクトボードにも収まりやすいのですが、ノブの密集度が高いため、意図せず他のノブに触れてしまうことも。また、VariacやVolumeのような微調整が求められるノブは、設定の際に丁寧な操作が必要になります。
Room #40:こんな人におすすめ
- PLEXI〜JCM800までのトーンを1台でカバーしたい人
- クリーンアンプでもマーシャルサウンドを実現したい人
- VariacやBoostを駆使して音作りを細かく追求したい人
- 自宅やスタジオでフルチューブアンプに近いサウンドが欲しい人
- 多機能なMIABペダルを探している中級〜上級プレイヤー
Room #40:まとめ
マーシャルの旨味”を詰め込んだ1台
Tsakalis Room #40は、PLEXIの煌びやかなクランチから、JCM800の重厚なディストーションまで、あらゆるマーシャルサウンドを1台で再現できる非常に完成度の高いペダルです。モード切替による音のキャラクター変化や、Variac・Boostといったコントロール機能の搭載により、ただの「Marshall風ペダル」ではない、細かな音作りの余地を残した本格的な一台に仕上がっています。
とくにVariacによる電圧コントロールは、ヴィンテージマーシャルの粘り感からモダンなタイトさまで表現可能で、演奏スタイルに応じてダイナミックな変化を生み出せる点が魅力です。また、Boost機能も単なる音量アップではなく、音の存在感を強調する実践的なツールとして機能します。
一方で、ノブの密集やセッティングの繊細さなど、扱いには多少の慣れが必要な面もあります。しかしそれを上回る魅力とポテンシャルがあり、使いこなすほどに応えてくれる懐の深さがあります。
まさに“本気のMarshall in a Box”。マーシャルアンプを愛するプレイヤーにとって、このRoom #40は一度は手に取ってみるべき価値のある1台と言えるでしょう。

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