ギタリストなら誰しも一度は憧れる「伝説のドライブサウンド」。 しかし、本物のヴィンテージ機材は価格が高騰し、それを模したブティックペダル(特に”King”の名を冠するあのペダル)は「5年待ち」が当たり前……。「もっと手軽に、でも妥協のない音が欲しい」というのは、私たち全ギタリストの切実な願いです。
そんな中、高品質なレプリカで定評のある Warm Audio(ワームオーディオ) から、とんでもない新製品が登場しました。その名も 「Throne Of Tone」。
一見するとMarshallの往年の名機「Blues Breaker」を彷彿とさせるルックスですが、その中身は「Blues Breaker」と「King of Tone」スタイルの2つの回路を1台に詰め込んだ、まさに「音の王座(Throne)」を狙う意欲作です。
今回は、このペダルを実際に足元に置き、スタジオで鳴らした感想を忖度なしでレビューしていきます。
Throne Of Tone:機材の特徴やメーカーの情報


Warm Audioは、プロオーディオ界隈で「数十万円するヴィンテージ機材の音を、数万円で再現する」ことで絶大な信頼を得ているメーカーです。
今回の「Throne Of Tone」の最大の特徴は、完全に独立した2つのドライブチャンネルを持っていることです。左右どちらのチャンネルでも、スイッチ一つで以下のキャラクターを選択できます。
- Bluesモード: いわゆる「Marshall Blues Breaker」スタイル。ガラスのような透明感と、ピッキングニュアンスの良さが特徴。
- Kingモード: 入手困難なブティックペダル「King of Tone」スタイル。Bluesモードより少し音が太く、中域に粘りがあり、リッチなサステインが得られます。
これらを「左はBlues、右はKing」のように設定したり、両方Kingにしたりと、組み合わせは無限大です。
Throne Of Tone:機材の詳細スペック


手に持ってみて最初に感じたのは「重っ!」という重量感です。軽いエレキギター並み(言い過ぎ?)に感じるほど頑丈な作りで、安っぽさは微塵もありません。
- コントロール(左右共通): Volume、Gain、Tone、Presence
- ミニスイッチ(左右共通):
- Voicing (BLUES / KING): 回路のキャラクター選択。
- Gain (HIGH / LOW): ゲイン幅の切り替え。Highにすると約20%ゲインが増すイメージです。
- Profile (BOOST / OD / DIST): クリッピング(歪みの質感)の切り替え。
- 背面・側面機能:
- Voltage Doubler: 9Vアダプター使用時に、内部で18Vに昇圧してヘッドルームを広げるスイッチ。
- FX Loop (Send/Return): これが超便利! 2つのチャンネルの間に外部エフェクターを挟めます。
【重要!プレゼンスノブの注意点】 このペダルのPresenceノブは少し特殊です。右(時計回り)に回しきると「OFF(回路バイパス)」になり、左に回していくほど「プレゼンス(超高域)が付加される」という挙動をします。 最初は「あれ?効かない?」と焦るかもしれませんが、「基本は右に回しきっておき、抜けを良くしたい時に左へ回す」と覚えると使いやすいです。
Throne Of Tone:サウンドレビュー

それでは、実際にシングルコイル(ストラト)とハムバッカー(レスポール)で音を出してみます。
■ 第一印象と「Blues」vs「King」 まずノイズが非常に少ないです。 「Bluesモード」は、シングルコイルで弾くと「ジャキッ」としたガラスのようなスパークル感が最高です。アンプのクランチをそのまま持ち上げたような透明感があります。 一方「Kingモード」に切り替えると、音がグッと太く、甘くなります。「Bluesモードだと少し音が細いかな?」と感じる場面でも、Kingモードなら安心感のあるリードトーンになります。
■ 歪みの質感と追従性 強く弾けば歪み、弱く弾けばクリーンになる「手元のコントロール性」は特筆ものです。 「DIST(ディストーション)」モードにしても、メタル的なモダンハイゲインではなく、あくまで「クラシックなロックの歪み」。コードを弾いた時の分離感が素晴らしく、各弦の音が団子になりません。
■ 2つを重ねがけ(スタッキング)の妙 このペダルの真骨頂は2個同時押しです。 例えば、「前段をKingモード(ブースター設定)」→「後段をBluesモード(メイン歪み)」にすると、太い音でアンプライクな歪みをプッシュでき、強烈に気持ちいいリードサウンドになります。 中央のスイッチで接続順(A→B / B→A)を瞬時に入れ替えられるので、「太い音で歪ませる」のか「歪んだ音の音量を上げる」のか、曲中で実験できるのが楽しすぎます。
■ 18V駆動の効果 背面のスイッチをONにすると、明らかに音の張り(ヘッドルーム)が変わります。コンプ感が減り、よりアンプに近いダイナミックレンジになります。個人的には、常時ON(18V)の方が好みでした。
Throne Of Tone:評価できるポイント、マイナスポイント

【評価できるポイント】
- 「あの音」が待たずに手に入る: 本家のKoTと弾き比べたレビュー動画でも「音の傾向もダイナミクスも非常に近い(95%再現されている)」と評価されています。
- Presenceノブが外にある: オリジナル機では内部トリマーだったりする調整が、表面のノブで出来るのは現場目線で最高です。
- センドリターンの存在: チャンネルAとBの間にディレイやコーラスを挟めるため、「歪み→空間系→ソロ用ブースト」という流れがこれ1台+αで完結します。
【マイナスポイント】
- 重量: 頑丈ですが、ボードに入れるとそれなりに重さを感じます。
- スイッチの誤操作リスク: 非常に多機能な分、フットスイッチの近くにミニスイッチが密集しています。ライブ中に勢いよく踏むと、ミニスイッチを蹴飛ばしてしまう可能性があるので注意が必要です。
Throne Of Tone:こんな人におすすめ
- 「King of Tone」に憧れているが、プレ値や待機リストに疲れた人
- シングルコイルを使っていて、音が細くなりすぎないリッチな歪みが欲しい人
- ボードのスペースを節約しつつ、バッキング用とソロ用の2種類の歪みを確保したい人
- 1台でクリーンブーストからクラシックロックまで幅広い音を作りたい人
Throne Of Tone:Q&A

Q. 2つのチャンネル(左と右)に違いはありますか? A. ありません。左右全く同じ回路が搭載されています。ですので、「左をバッキング用、右をソロ用」にしても良いですし、「左を常時ONのプリアンプ的使い方、右をブースター」にするなど、自由に設定可能です。
Q. プレゼンス(Presence)ノブの使い方が特殊と聞きましたが? A. はい、少し直感に反する動きをします。右(時計回り)に回しきると「OFF」になり、左に回していくほど「高域(プレゼンス)が付加される」という仕様です。 基本は「右に回しきった状態(OFF)」で音を作り、ハムバッカーなどで「もう少し抜けが欲しいな」と思った時に、少しずつ左へ回していくのがおすすめです。
Q. JC-120(ジャズコ)などのトランジスタアンプでも良い音は出ますか? A. はい、相性は非常に良いです。 本機は真空管のような温かみとコンプレッション感を付加してくれるため、硬質になりがちなJC-120の音を、色気のあるリッチなトーンに変えてくれます。動画レビューでもJCタイプのシミュレーターで素晴らしいサウンドが出ていました。
Q. オリジナルのKing of Toneのように、裏蓋を開けて設定を変える必要がありますか? A. いいえ、その必要はありません! これが本機の最大のメリットの一つです。オリジナルではケース内部にあった「ゲイン切り替え」や「クリッピング切り替え」のスイッチが、すべて表側のミニスイッチとして配置されています。 ドライバーを使わずに、指先一つですべての機能を瞬時に切り替えられます。
Q. メタルなどの激しいジャンルにも使えますか? A. 単体では難しいです。 「DIST(ディストーション)」モードにしても、あくまで「クラシックロック」や「ハードロック」の範囲内の歪みです。モダンなメタルのようなザクザクした音は出ません。ただし、メタル用のアンプ(Rectifierなど)の手前に繋いで、ブースターとして使う用途には最適です。
Q. どんなアダプターが必要ですか? A. 一般的な9Vセンターマイナス(BOSS等のアダプター)で動作します。 18Vで駆動させたい場合も、アダプターは9Vのままで大丈夫です(内部昇圧回路が入っているため)。逆に、18Vのアダプターを直接挿すと故障の原因になるので絶対に避けてください。
Q. ペダルボードでの場所は取りますか? A. コンパクトエフェクター2個分よりは少し小さいですが、最近のミニペダル等と比べると存在感はあります(横幅約11〜12cm程度)。しかし、これ1台で「歪み2台+バッファー/ブースター」の役割をこなせると考えれば、結果的にボードの省スペース化に貢献します。
Throne Of Tone:まとめ

Warm Audio「Throne Of Tone」は、単なるクローンペダルという枠を超え、「現代のギタリストが使いやすいように進化させた完成形」だと感じました。
「Marshall Blues Breaker」の枯れた味わいと、「King of Tone」の艶やかな太さ。これらを自由に選び、混ぜ合わせる体験は、一度味わうと病みつきになります。 特に「センドリターン」や「外部プレゼンスノブ」といった機能は、オリジナルにはない現代的なアドバンテージです。
35,800円という価格は安くはありませんが、「最高品質のブティックペダルを2台買った(しかも並列でも直列でも使える)」と考えれば、コストパフォーマンスは驚異的です。
あなたの足元に「王座」を置く準備はできましたか? ぜひ一度、このリッチなトーンを体験してみてください。


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