出典:ehx.com
はじめに
「えっ、Big Muffに『2』なんてあったの?」 この製品名を見て、誰もがそう思ったはずです。半世紀以上の歴史を持つBig Muffですが、ナンバリングされた正当続編が登場するのは前代未聞の出来事です。
今回紹介するのは、Electro-Harmonix(エレクトロ・ハーモニックス)から突如リリースされた問題作、 「BIG MUFF PI 2」 。
実はこれ、単なる新製品ではありません。エレハモの倉庫から発掘された、1970年代当時の「未発表の回路図(ボツ案)」を現代に蘇らせたという、とんでもないバックストーリーを持つ一台です。 JHS Pedalsのジョシュ・スコット氏らが協力して復活させたこの「幻の2号機」。果たして、私たちが知るBig Muffと何が違うのか?そして、なぜ当時発売されなかったのか? その謎を解き明かすべく、実際に音を出して検証していきます。
BIG MUFF PI 2:機材の特徴、メーカーについて

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Electro-Harmonix(エレハモ)は、言わずと知れたファズの帝王です。 今回の「Big Muff Pi 2」には、非常に興味深い開発経緯があります。
- 失われた回路図の発見: JHS Pedalsのジョシュ・スコット氏らがエレハモの創始者マイク・マシューズ氏らを取材した際、当時のエンジニアであるボブ・マイヤー氏のメモから「Big Muff – Using (2 Dual Op-Amps)」と書かれた手書きの回路図を発見しました。
- オペアンプ版とは別物: 70年代後半に発売された有名な「Op-Amp Big Muff(スマッシング・パンプキンズで有名)」とは全く異なる、これまで世に出たことのないデュアル・オペアンプ回路を採用しています。
- モーメンタリー機能: 歴史的な回路を再現しつつ、現代的な機能として「踏んでいる間だけONになる」モーメンタリースイッチ機能が追加されています。
つまり、「もし歴史が少し違っていたら、これが標準のBig Muffになっていたかもしれない」というパラレルワールドの機材なのです。
BIG MUFF PI 2:機材の詳細スペック

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筐体は扱いやすいナノサイズ。デザインは著名なアーティストDaniel Danger氏によるもので、赤と黒のコントラストが攻撃的です。
- コントロール: Volume, Tone, Sustain
- スイッチ: トゥルーバイパス(モーメンタリーアクション対応)
- 電源: 9VDCセンターマイナス(電池駆動可)
- 回路: デュアル・オペアンプ構成
特筆すべきはフットスイッチの挙動です。 普通に「カチッ」と踏めば通常のON/OFFですが、「踏みっぱなし」にすると、踏んでいる間だけエフェクトがONになります。これにより、リフの合間に一瞬だけ轟音を混ぜる「スタッター奏法」や「マシンガン奏法」が可能になっています。これは歴代Muffにはなかった画期的な機能です。
BIG MUFF PI 2:サウンドレビュー

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■ 第一印象:荒々しい!でも速い! いつものBig Muff(特に現行のNano Muffなど)に比べると、明らかに「コンプ感が少なく、音が速い」という印象です。 従来のMuffが「壁のような轟音」だとすれば、この「2」は「ガラス片が混じった嵐」のような、バリッとした粗さがあります。オペアンプ特有の硬さがありつつも、以前のリイシュー版Op-Amp Muffほどドンシャリではなく、中域の押し出し感もしっかりあります。
■ 歪みの質感 Sustainノブを上げていくと、ブチブチとしたゲート感のあるファズサウンドから、無限のサステインまで変化します。 特筆すべきは「クリッピングの粗さ」です。公式が「Less Refined(洗練されていない)」と表現している通り、少し汚れたような、野性味あふれる歪み方をします。これがグランジやオルタナティブロックには最高にマッチします。
■ Toneノブの効き 相変わらず効きは強烈ですが、従来のMuffよりも「使えるポイント」が広い気がします。左に回しきった時の低音は「ドゥーム」そのもの。右に回すと耳をつんざくような高域が出ますが、バンドアンサンブルではこのくらい抜ける音がちょうど良いかもしれません。
■ モーメンタリースイッチの楽しさ これが予想以上に使えます。 クリーンでアルペジオを弾きながら、フレーズの語尾だけスイッチを踏んで「ギャオン!」とノイズを乗せる。このプレイがペダル1個で完結するのは新しい体験です。飛び道具としてボードに入れておくだけでも価値があります。
BIG MUFF PI 2:評価できるポイント、マイナスポイント
【評価できるポイント】
- 唯一無二のストーリー: 「幻の未発表回路」を所有できるというだけで、機材好きとしての所有欲が満たされます。
- 他のMuffと被らない音: 既にBig Muffを持っている人でも、キャラクターが違うため「買い足し」の理由になります。
- モーメンタリースイッチ: ライブパフォーマンスでの表現力が格段に上がります。
- 価格設定: このストーリーと機能で20,800円は、最近のブティックペダル高騰を考えると良心的です。
【マイナスポイント】
- 優等生ではない: 「スムーズでクリーミーなリードトーン」を求めている人には、少し音が暴れすぎると感じるかもしれません。
- 名前が紛らわしい: 「2」という名前ですが、決して「Big Muffの進化版(バージョン2)」という意味ではなく、「別路線の異端児」であることは理解しておく必要があります。
BIG MUFF PI 2:こんな人におすすめ
- Big Muffが好きで、既に数台持っているが「違う味」が欲しいコレクター。
- JHS Pedalsなどの「機材の歴史掘り下げ」系コンテンツが好きな人。
- ライブで飛び道具的にファズを使いたい人(モーメンタリー機能が活躍します)。
- 90年代オルタナティブロックのような、少し粗くて汚い歪みを探している人。
BIG MUFF PI 2:Q&A
Q. 以前出ていた「Op-Amp Big Muff(オレンジ色の文字)」と同じ音ですか? A. いいえ、違います。 あちらはスマッシング・パンプキンズの使用で有名な「1978年頃の量産モデル」の復刻ですが、今回の「2」はそれ以前に考案され、ボツになった「別のオペアンプ回路」です。弾き比べると、「2」の方がよりダイレクトで、少しローファイな野太さを感じます。
Q. 初めてのBig Muffとして買っても大丈夫ですか? A. もちろん大丈夫ですが、もし「王道のMuffサウンド(デヴィッド・ギルモアのような音)」を求めているなら、通常の「Nano Big Muff Pi」の方がイメージに近いかもしれません。「2」はもう少し個性的で攻撃的な音がします。
Q. モーメンタリー機能の設定は必要ですか? A. 設定不要です。 スイッチの構造自体が特殊で、「短く踏めばON/OFF切り替え」「長く踏めばモーメンタリー」を自動で判別してくれます。直感的に使えます。
Q. 電池は入りますか? A. はい、通常の9V電池(006P型)が1個入ります。裏蓋のネジを外して交換する、いつものエレハモスタイルです。
BIG MUFF PI 2:まとめ

Electro-Harmonix 「BIG MUFF PI 2」は、単なる新製品の枠を超えた「歴史の答え合わせ」のようなペダルでした。
50年前にボブ・マイヤー氏が描いた設計図が、なぜ当時採用されなかったのか。弾いてみて少し分かった気がします。当時の音楽シーンには、この音は少し「早すぎた(暴れすぎた)」のかもしれません。 しかし、グランジやノイズミュージックを経た現代の私たちの耳には、この粗削りなサウンドが最高にクールに響きます。
「幻の音」が2万円ちょっとで手に入る時代。Big Muffの沼はまだまだ深そうです。 人とは違うファズサウンドを探しているなら、ぜひこの「赤い衝撃」を試してみてください。



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