本物の真空管が生むリアルな歪みとは。フェンダーといえば、ギターやアンプの名門ブランドというイメージが強いが、近年ではエフェクターにも力を入れている。その中でも注目を集めるのが「MTG Tube Distortion」だ。このペダルは、多くのオーバードライブやディストーションペダルが「真空管らしいサウンド」を目指しているのに対し、本物の真空管を搭載しているという点が最大の特徴である。
設計には、著名なアンプビルダーであるBruce Egnaterが関わっており、アメリカ製のNOS(New Old Stock)ミリタリーグレードの6205真空管が使われている。通常のギターアンプに搭載される12AX7などとは異なるミニチュアサイズの真空管だが、これが独特の温かみとレスポンスの良さを生み出している。さらに、9V電源ながら内部で150Vに昇圧し、真空管の本来の動作を再現している点も見逃せない。
サウンドとコントロールについて
幅広いトーンシェイピングが可能な設計MTG Tube Distortionには、豊富なコントロールが搭載されており、幅広い音作りが可能になっている。基本的なゲインとボリュームのほかに、3バンドEQ(トレブル、ミドル、ベース)を備えており、アンプやギターに合わせた細かな調整ができる。特にミドルの効きが良く、スコープをカットしてスムーズな歪みを作ることもできれば、ミドルを押し出して抜けの良いサウンドを作ることも可能だ。
ゲインとレベルコントロール
このペダルのゲインレンジは、クラシックロックやブルースに適したミッドゲインを中心に設計されており、最大ゲインでも極端なハイゲインにはならない。軽いクランチサウンドから、しっかりと歪んだリードサウンドまでカバーするものの、モダンなメタルサウンドを求める場合にはブースト機能を活用するか、別のハイゲインペダルとの組み合わせが必要になる。ゲインを下げた状態では、クリーンブースター的な使い方もでき、アンプをプッシュするのにも適している。
レベルコントロール(Volume)は出力レベルを調整するもので、アンプのゲインと組み合わせてバランスを取ることで、クリーンなブーストからしっかりと歪んだドライブサウンドまで幅広く調整できる。ライブやレコーディングの際には、アンプの設定との組み合わせで、より一層サウンドの幅を広げられる。
3バンドEQ(Bass, Middle, Treble)
MTG Tube DistortionのEQは3バンド構成になっており、各帯域の調整幅が広いため、さまざまなアンプやギターとの相性を調整しやすい。
- Bass(低音域)
低音域を調整するノブで、バッキング時の厚みや、リフの重量感を調整するのに役立つ。ベースを上げすぎるとモコモコした音になりやすいため、特に歪みの強いセッティングでは適度に調整するのがポイント。 - Middle(中音域)
中音域を調整するノブで、ギターの存在感や抜けの良さを決める重要なコントロール。ミッドを下げるとスッキリとしたモダンなサウンドになり、上げるとよりウォームでファットなトーンが得られる。特に、ソロやリードプレイ時に重要な帯域を支配する部分なので、演奏スタイルに合わせた調整が求められる。 - Treble(高音域)
高音域を調整するノブで、ピッキングのアタック感や音抜けの良さを決定する。上げすぎると耳障りなトレブル成分が強調されるため、シングルコイルのギターでは少し抑えめにし、ハムバッカーのギターでは音抜けを良くするために適度にブーストするのが理想的。
Tightノブによる低域のコントロール
Tightノブは、低音のアタック感やレスポンスを調整する独自のコントロールで、Bruce Egnaterのアンプデザインにも採用されている機能だ。このノブを上げることで、ローエンドが引き締まり、モコモコしがちな低音をスッキリとしたサウンドに整えることができる。特に、ダウンチューニングやドロップチューニングを多用するプレイヤーには有用で、リフプレイの際に音の輪郭をクリアにすることが可能となる。
一方、Tightノブを下げると低音域が豊かになり、より太くウォームなトーンが得られるため、ブルースやジャズのような柔らかいトーンを求める場合には効果的な調整ができる。これは、ギターの種類やピックアップの特性に合わせて適宜調整するのがポイントだ。
ブースト機能の活用
MTG Tube Distortionの大きな特徴の一つが、独立したブースト機能を備えている点である。ブーストは、Boost GainとBoost Levelの2つのコントロールで構成されており、サウンドをプッシュする方法を細かく調整できる。
- Boost Gain
追加のゲインを加え、より強い歪みを生み出すことができる。クリーン寄りの設定でも、ブーストをかけることでリードプレイ時のサステインを強化し、エッジの効いたサウンドに変化させることが可能。 - Boost Level
ブースト時の音量を調整するノブで、単純に音を大きくする用途に適している。例えば、リードプレイでの音抜けを良くしたい場合や、クリーンサウンドとオーバードライブサウンドのバランスを取る際に役立つ。
ただし、MTG Tube Distortionのブースト機能は、ペダルの歪みがオンの状態でしか使用できないため、クリーンサウンドのブースターとして使うことはできない。この点は、他のブースター系ペダルと組み合わせる際に考慮しておくべきポイントである。

使用レビュー!アンプとの相性やプレイフィールを検証
Fender Deluxe ReverbやMarshall 64 Handwired Deluxeなど、複数のアンプで試してみたところ、MTG Tube Distortionは非常にアンプライクな反応を示すペダルであることがわかった。アンプのクリーンチャンネルに接続すると、ナチュラルな倍音がしっかりと乗り、まるでアンプのプリアンプをブーストしているかのようなリアルな歪みを得ることができた。
ゲインを低めに設定すると、アンプの自然なクランチを少しプッシュするような感覚で、ブルースやクラシックロックにぴったりのトーンが得られる。一方、ゲインを上げると、しっかりとしたミッドゲインのディストーションサウンドになり、単音リフやパワーコードを弾く際にも適した音圧感がある。ただし、いわゆるハイゲインペダルのような強烈な歪みを求める場合は、ブーストと組み合わせるか、別のペダルを併用する必要がありそうだ。
また、ギターのボリューム操作に対する追従性も良好で、ピッキングの強弱によって歪みのニュアンスがしっかり変化する。このあたりは、やはり本物の真空管が生み出すダイナミクスの賜物といえるだろう。

価格とコストパフォーマンスを検証!
ライバル機種との比較Fender MTG Tube Distortionの新品価格は約20,000円〜22,000円程度で、中古市場では15,000円前後で取引されている。同じFenderのエフェクターラインナップには、PugilistやFull Moonといった他のディストーションペダルもあり、価格帯もほぼ同じである。
競合としては、Victory V4シリーズやBogner Ecstasy Blueのような高品質なチューブディストーションが挙げられるが、それらと比べるとMTG Tube Distortionはやや価格を抑えつつ、本物の真空管ならではの質感を楽しめる点が魅力だ。ただし、音作りの幅が広い反面、どこか「無難」な印象もあり、際立った個性を求める人には物足りないかもしれない。
この機材の使用上のメリット、デメリット
メリット:本物の真空管ならではのサウンドと多彩なトーンシェイピング
Fender MTG Tube Distortionの最大の魅力は、真空管を実際に搭載しながらもペダルとして扱いやすい設計になっている点だ。通常の9V電源で動作しながら内部で150Vに昇圧することで、真空管ならではの豊かな倍音やレスポンスを再現している。この点は、ソリッドステート回路では実現しにくいナチュラルな歪み感を求めるギタリストにとって、大きなアドバンテージとなる。
また、3バンドEQ(トレブル・ミドル・ベース)を備えており、アンプの特性やギターのピックアップに応じた細かな音作りが可能だ。特にミドルの調整幅が広く、モダンなスコopedミッドなサウンドから、ハリのあるクラシックなトーンまで幅広く対応できる。さらに、低域のレスポンスを調整できる「Tight」コントロールを搭載しており、ブーミーさを抑えてタイトなリフを作ることができるため、幅広いジャンルに適応する。
加えて、ブースト機能が搭載されているのも大きなメリットの一つだ。通常、ブーストペダルを別に用意しなければならないケースが多いが、MTG Tube Distortionではゲインとレベルを個別に調整できるため、リードプレイ時の音量アップや歪みの増強がこれ1台で可能になる。
デメリット:ハイゲインにはやや物足りない、消費電流が多い
一方で、Fender MTG Tube Distortionにはいくつかの欠点もある。最大のポイントは、ゲインレンジが「ミッドゲイン寄り」に設計されているため、ハードロックやメタルなどのハイゲインサウンドを求めるプレイヤーには物足りないと感じる可能性がある。ゲインを最大にしても、いわゆるモダンメタル系の圧倒的な歪みにはならず、むしろクラシックロックやブルース、ハードロック向きのサウンドである。
また、同価格帯には多くの競争相手がいる。例えば、同じFenderの「Pugilist Distortion」や「Full Moon Distortion」など、異なるキャラクターのペダルもあり、それぞれ特徴的な歪みを提供する。MTG Tube Distortionはナチュラルな歪み感が魅力だが、「個性の強い音」ではないため、より特徴的なサウンドを求めるギタリストには響かない可能性がある。
さらに、消費電流が多い点も考慮すべきポイントだ。真空管を高電圧で駆動するために300mA程度の電流を必要とし、一般的なペダル用のパワーサプライでは動作しない場合がある。特に、エフェクターボードに多数のペダルを組み込んでいる場合、電源環境を見直す必要があるかもしれない。
ナチュラルなチューブサウンドを求めるプレイヤー向け
Fender MTG Tube Distortionは、真空管ならではのナチュラルな歪みと、細かなトーンシェイピングが可能な優れたエフェクターである。しかし、ハイゲイン志向のプレイヤーや、より特徴的なトーンを求めるギタリストには、少し物足りないかもしれない。適度なゲインでアンプをプッシュし、ブースト機能を活用しながらクラシックロックやブルース、モダンロックなどを演奏したい人には、非常に魅力的な選択肢となるだろう。

まとめ
本物の真空管が生み出すフェンダーならではの歪み
Fender MTG Tube Distortionは、真空管を搭載したペダルとして、アンプライクなサウンドと柔軟なトーンシェイピングを実現している。内部昇圧によって本物の真空管らしいナチュラルな歪みを生み出し、3バンドEQやTightノブを活用することで、幅広いジャンルに対応可能だ。また、ブースト機能を搭載しており、リードプレイ時の音圧強化やサウンドの切り替えにも柔軟に対応できる点が魅力である。
一方で、ハイゲインにはやや物足りない点や、消費電流の多さ、そして競合製品に比べて特徴的なトーンが少ないといったデメリットもある。特にメタルやモダンなハードロック向けの強烈な歪みを求めるプレイヤーには、別の選択肢を検討するのも良いかもしれない。
しかし、フェンダーが手掛けたチューブディストーションとして、クラシックロックやブルース、ハードロックといったジャンルには最適なペダルであることは間違いない。アンプをプッシュする感覚で使いたい人や、よりダイナミックな演奏表現を求めるギタリストには、ぜひ試してみてほしい一台だ。
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