ヴィンテージファズを現代技術で再現する名機ギターの音作りにおいて、ファズは独特のキャラクターを持つエフェクターだ。オーバードライブやディストーションとは異なり、荒々しく歪むことで、1960年代~70年代のロックやブルースに欠かせないサウンドを生み出してきた。BOSSの「FZ-5」は、そんな歴史的なファズの名機をモデリング技術で再現しつつ、現代的な使いやすさを加えたペダルだ。本記事では、FZ-5の特徴やサウンド、実際の使用感を詳しくレビューしていく。
歴史的なファズを忠実に再現するCOSM技術

BOSS FZ-5は、1960年代から1970年代にかけて活躍した歴史的なファズ・サウンドをBOSS独自のデジタルモデリング技術「COSM(Composite Object Sound Modeling)」によって再現したコンパクトペダルである。一般的なファズペダルと異なり、FZ-5には3種類のヴィンテージ・ファズ・サウンドが搭載されている。

3つのモードで幅広いファズ・サウンドを実現FZ-5は、モードスイッチを切り替えることで、3種類の歴史的なファズのサウンドを選択できる。
FACE(F)モード:ファズフェイス系1960年代後期のサイケデリック・ロックを象徴するファズフェイスをモデリング。このモデルは、ジミ・ヘンドリックスをはじめとする伝説的なギタリストたちが愛用したサウンドで、太くウォームなトーンが特徴。オリジナルのゲルマニウム・トランジスター「AC128」を忠実に再現し、ギターのボリュームを絞るとサウンドがクリーンに近づくという特性も再現されている。
MST(M)モード:マエストロ系1960年代に登場したマエストロ・ファズを再現。ゲルマニウム・トランジスター「2N2614」を使用したサウンドで、高域が強調された独特の歪みが特徴。ローファイでザラついたサウンドは、ガレージロックやサイケデリックロックにぴったりのトーンだ。
OCTAVE(O)モード:オクターブファズ系1オクターブ上の倍音が追加されるオクターブ・ファズを再現。オリジナルのオクターブ・ファズは、単音でのリードプレイに適しており、ジミ・ヘンドリックスの「Purple Haze」などで有名なサウンド。歪みを抑えるとオクターブ成分が際立ち、よりクラシックな雰囲気を演出できる。
オリジナルを超えたセッティングも可能
FZ-5には、歪みの強さを調整する「FUZZ」ノブが搭載されている。このノブの設定によって、オリジナルのファズペダルにはない、より広範なサウンドメイクが可能となっている。
ミニマムからセンター位置この範囲では、各ファズモデルのオリジナルのサウンドを忠実に再現。ヴィンテージファズの独特な歪みを手軽に得ることができる。
センターからブースト領域ここからはオリジナルモデルを超えた強力な歪みを実現する設定。ドライブ系アンプのブーストとして使用すれば、太く力強いリードトーンが得られる。特に、OCTAVE(O)モードでのブースト設定は、オクターブ成分を強調し、サイケデリックなサウンドに最適。
また、FZ-5はギターのボリューム操作にも敏感に反応する。特にFACE(F)モードでは、ギターのボリュームを絞ることで歪みを抑え、クリーンなサウンドへと滑らかに変化させることができる。
デジタルモデリングならではのメリット
FZ-5はデジタルモデリングを採用しているため、従来のアナログファズと比べて扱いやすさが際立っている。一般的なアナログファズは、エフェクターボード内での配置によっては音痩せやノイズの問題が発生しやすいが、FZ-5はそれらの影響を受けにくい。また、アナログファズのような個体差がなく、どの個体を手に取っても安定したトーンを得られるのもメリットのひとつだ。
また、クライベイビー(ワウペダル)の後に繋いだ際にも音が破綻しにくいという点も注目したい。これは、アナログのファズフェイスではよくある問題だが、FZ-5のデジタル処理により、このような組み合わせでもスムーズに使用できる。

実際の使用感:長所と短所
BOSS FZ-5を実際に使用してみると、その使いやすさとヴィンテージファズの魅力をバランス良く兼ね備えていることが分かる。一方で、アナログファズに慣れたプレイヤーにとっては、やや物足りなさを感じる部分もある。以下に、実際の使用レビューをもとに、長所と短所について詳しく解説する。
長所|手軽にヴィンテージファズを楽しめる万能ペダル
FZ-5の最大の魅力は、3種類の異なるファズを1台で切り替えて使用できることだ。オリジナルのヴィンテージファズは、それぞれが異なる特性を持っており、個別に揃えるとなるとコストがかかる。しかし、FZ-5ならば、ファズフェイス、マエストロ、オクターブファズという3つの伝説的なサウンドを簡単に試せるため、コストパフォーマンスが非常に高い。
また、デジタル技術を活用しているため、ノイズが少なく扱いやすいのも大きなメリットだ。一般的なアナログファズは、ノイズが強く、接続順やギターのボリューム調整によって大きく音色が変わるため、扱いが難しいと感じることがある。しかし、FZ-5はペダルボード内のどの位置に置いても安定したサウンドを提供し、エフェクトの順番に対して神経質にならずに済む。
また、ギターのボリューム操作による音色変化もスムーズで、特にFACE(F)モードでは、ボリュームを絞ることで歪みを抑えたクリーントーンへと滑らかに変化する。ヴィンテージファズ特有のボリュームレスポンスを再現している点は、ファズ特有の表現力を活かしたプレイに適している。
さらに、FUZZノブの調整範囲が広く、センター位置まではオリジナルのサウンドを忠実に再現し、それ以上に回すことで強力なブースト効果を得られる。特にOCTAVE(O)モードでのブースト設定では、オクターブ成分がより強調され、過激なサウンドを作ることができる。このため、オクターブファズを単体で購入するよりも、FZ-5を導入することでサウンドの幅を広げられる点は大きな利点だ。
短所|アナログファズ特有の暴れ具合が少ない点が好みを分ける
一方で、FZ-5にはいくつかの短所もある。まず、トーンノブが搭載されていないため、細かなEQ調整ができない点が挙げられる。オリジナルのファズペダルにもトーンコントロールがないモデルは多いが、デジタルモデリングを採用しているFZ-5であれば、もう少し細かく音色を調整できるようにしても良かったのではないかと感じる。実際に使用する際には、アンプ側や他のエフェクターで音作りを工夫する必要がある。
また、アナログファズの「不完全さ」や「暴れ具合」を楽しみたいプレイヤーにとっては、FZ-5の安定したデジタルサウンドがやや物足りなく感じることがある。オリジナルのヴィンテージファズは、ギターのボリュームやピッキングの強弱によって大きく表情を変え、意図しない倍音や荒々しさが生まれることが特徴だ。しかし、FZ-5はデジタル処理のためか、そのランダム性が少なく、あくまでも安定したサウンドを提供する。これにより、特にアナログファズに慣れたプレイヤーにとっては「使いやすいけれども、少し物足りない」という印象を受けるかもしれない。
さらに、MST(M)モードは独特の特性を持っており、音量が小さめに設定されているため、適切なセッティングをしないとバンド演奏の中で埋もれやすい点にも注意が必要だ。特に、ファズノブを12時以上に設定しないと十分な音量が出ないため、初めて使用する際には戸惑うことがあるだろう。ただし、この特性を理解したうえで、適切に音作りをすれば、マエストロ系のローファイなサウンドを存分に楽しむことができる。

BOSS FZ-5のまとめ|ヴィンテージファズを手軽に楽しめる万能ペダル
BOSS FZ-5は、1960年代~70年代のクラシックなファズ・サウンドをデジタル技術で忠実に再現しつつ、現代のギタリストにも扱いやすい仕様に仕上げられた優れたペダルだ。3つの異なるファズ・モード(FACE、MST FUZZ、OCTAVE FUZZ)を搭載し、それぞれの歴史的な名機の特徴を活かしたサウンドを提供している。特に、ファズフェイス系のFモードではギターのボリューム操作による繊細なニュアンスの変化が楽しめ、マエストロ系のMモードでは独特のローファイ感を持つファズサウンドを体験できる。Oモードでは、サイケデリックなオクターブファズの世界に浸ることが可能だ。
また、FUZZノブの設定次第で、オリジナルを忠実に再現するだけでなく、より過激な歪みを作り出すこともできる。オクターブ成分を強調したり、アンプのブースターとして活用したりすることで、音作りの幅を広げることが可能だ。アナログファズ特有の扱いにくさを克服し、デジタルならではの安定感と低ノイズ性能を持つ点も、FZ-5の大きな魅力となっている。
ヴィンテージファズを試したいが、高価なオリジナルモデルを手に入れるのが難しいというギタリストにとって、FZ-5は手軽に多彩なファズ・サウンドを楽しめる理想的な選択肢だ。使い勝手の良さと音のクオリティを両立したこのペダルは、ファズ初心者からベテランまで幅広いプレイヤーにとって魅力的な一台と言えるだろう。
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