
【Fuel Injector!VOXが放つ“純粋オーバードライブ”の本気】
VOX Valvenergyシリーズといえば、アンプシミュレータ系ペダルとして確かな評価を得てきたラインナップ。そんな中、ついにリリースされたのがFuel Injector。これはいわゆる「アンプ風」ではなく、純粋なオーバードライブペダルとしての立ち位置を貫いているモデルだ。
実際に試してみると、これがまた驚くほど良い。チューブ感のある温かみ、ミッドに寄りすぎない広域レンジ、どのポジションでも安定した音の芯。歪ませても破綻せず、ピッキングニュアンスが自然に追従してくる感じがたまらない。
しかも、VOXならではのNutubeがしっかり搭載されており、本物の真空管のようなレスポンスとサウンドの“伸び”が感じられる。これだけでも、ただのデジタルオーバードライブとは明確に一線を画している。これまでのValvenergyシリーズがアンプ的な方向性だったのに対して、Fuel Injectorはもっとプレイヤーの手元に寄り添った純粋な歪みペダルだと感じる。
【Fuel Injectorの基本構成と特徴】

Fuel Injectorの操作系は極めてシンプル。レベル/トーン/ドライブという王道の3ノブ構成に加えて、ナチュラル/ファットを切り替えるミニスイッチがひとつ。このスイッチが非常に優秀で、ファットモードではローエンドに厚みが加わり、バンドアンサンブルの中でもしっかりと音が残る。特にシングルコイルのブリッジポジションとの相性が抜群で、「あと少しの肉付きが欲しい…」というときにぴったり効いてくれる。
また、他のValvenergyシリーズとのリンク機能も健在。専用ケーブルで繋げば、ひとつをONにしたとき他をOFFにするなどの連携も可能。シリーズで揃えたときの統一感と利便性は相当なものだ。
デザイン面でも細かいこだわりが光る。波形表示のような視覚的インターフェースがあり、今どのくらい入力されているかが感覚的にわかるようになっている。機能面に加えて、視覚的にもプレイヤーを楽しませる工夫がなされているのは嬉しい。
【実際の使用感:歪みはどこまでもスムーズ】
まず注目すべきは、ドライブ0でもほんのり温かいクリーンブースト的な効果が得られること。そこからゲインを上げていくと、TS系とは違う、よりナチュラルで立体感のある歪みが出てくる。
12時付近で絶妙なローゲインオーバードライブ、さらにそこから上げていくと、しっかりとしたハードロック的な厚みが出てくる。とはいえハイゲイン過ぎることはなく、あくまで“音楽的な範囲”に収まってくれるのが良い。
そして特筆すべきはノイズの少なさとクリーンアップ性能の高さ。ドライブをMAXにしても、ギターのボリュームを絞るとしっかりクリーントーンに戻ってくる。真空管アンプさながらの挙動で、プレイヤーの手元に敏感に反応する。
また、歪ませた際の音の分離感や、コードを弾いたときの各音の聞こえ方も素晴らしい。複雑なコード進行や速いパッセージでも、しっかり一音一音が前に出てくる印象だ。これにより、演奏の自由度が広がる。

【サウンドキャラクターは?マーシャル寄り?】
印象としては、特定のアンプを模したわけではないが、「マーシャル系の歪みに通じる質感」がある。ざらついた倍音がうっすら乗り、ピッキングに対して“ねばり”が感じられる。
しかしながら中域に寄り過ぎず、トーンノブの可変幅も広いため、Fender系アンプやVOX系ともマッチしやすい。真空管アンプの持つ「レンジの広さ」と「反応の良さ」をしっかり再現していると感じた。
そのため、ジャンルを問わず幅広く使える。ブルースからロック、ファンクやポップスまで、Fuel Injectorひとつでカバーできる汎用性の高さは特筆すべきだろう。
【ファット/ナチュラルの違いと使い分け】

ナチュラルモードは、全体的にタイトで扱いやすく、単体でも他のペダルと組み合わせても違和感が出にくい。ソロプレイやリードフレーズでもしっかり抜けてくるので、まずはこちらで使うのが無難。
一方ファットモードは、ローがやや強調され、ブリッジミュートやパワーコードの重厚感が欲しいときに活躍。トリオ編成などで空間を埋めたいとき、非常に頼れる存在になる。ジャンルによってはこちらをメインに据えるのもアリだ。
このモード切替により、同じセッティングでもまるで違う個性を引き出せるのもFuel Injectorの大きな魅力だ。アンプ側がクリーンであればあるほど、このペダルの持つ個性がより際立ってくる印象だ。
Q&A

Q. Fuel Injectorはどんなジャンルに合いますか?
A. クリーンブーストからハードロックのリズムギターまで幅広く対応できます。中域が過度に盛り上がらない自然な歪みなので、ブルース・ロック・ポップス・ファンクなど、ジャンルを選ばず馴染んでくれます。
Q. ファット/ナチュラルモードの違いは?どちらがいいの?
A. ナチュラルは全体的にタイトで抜けが良く、他のペダルとの相性も良好。ファットはローが強調され、単体での迫力や“壁感”が欲しい時に向いています。シングルコイルにはファットが合うことも多く、ハムバッカーならナチュラルの方が扱いやすい場合も。
Q. 真空管アンプじゃなくてもこのペダルの良さは出せる?
A. 十分に出せます。特にソリッドステートアンプ(例:Roland JC-120)との相性が非常に良く、真空管アンプがなくても“チューブらしさ”が感じられます。これはNutubeならではの強みです。
Q. デジタル臭さや作り物っぽい音はしませんか?
A. ほとんどありません。Nutubeの働きにより、アナログ的な質感と自然なコンプレッション感が得られます。歪みの粒立ちも滑らかで、特にボリューム操作やピッキングの強弱に応じた反応は、デジタルとは思えないナチュラルさです。
Q. TS系やOD-3などと比べて、どういう違いがありますか?
A. TS系が中域にフォーカスした粘りのある歪みなのに対して、Fuel Injectorはより広い帯域で自然に歪んでくれます。OD-3やBD-2のようなレンジの広さと立体感、OCD的な粘り感の中間に位置するような印象です。
Q. 初心者でも使いやすい?セッティングは難しくない?
A. とてもシンプルな構成なので初心者にもおすすめです。トーン・ドライブ・レベルの3ノブに、モード切替スイッチだけ。極端なセッティングでも破綻しにくいので、ライブ中にノブを蹴っ飛ばしても安心です。
【まとめ:真空管らしさと汎用性を高い次元で両立】
Fuel Injectorは、真空管的な響きとレスポンスを持ちつつ、どのアンプにも合わせやすい万能オーバードライブとして仕上がっている。特定の「~風」を超えた、“自分だけの音”を作りやすいペダルだ。
シンプルな見た目とは裏腹に、プレイヤーのニュアンスに極めて忠実に反応し、真空管らしい厚み・立体感・ピッキングの食いつきを持っている。中~上級者の「もう一台欲しい歪みペダル」として、非常に良い選択肢になるだろう。
価格は新品でおおよそ24,000円前後となっており、現時点では主要なECサイトでも欠品の様子は見られない。とはいえ、今後再評価が進めば再び品薄になる可能性もあるため、検討中の方は早めのチェックがおすすめだ。特にジャズコーラスなどのソリッドステートアンプと組み合わせた際の相性は抜群で、真空管アンプを常用していないプレイヤーでも、チューブらしい粘りや立体感を存分に享受できる点は見逃せない。

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