最初に手にしたとき、「これ本当にアンプ?」と思った。手のひらサイズでたったの450g、それでいて出力は50W。VOXが放つMV50 Rockは、その見た目からは想像できないほどの実力派ミニアンプだ。
Nutubeという新しい真空管テクノロジーを搭載し、「本物の真空管サウンド」を小型筐体で実現。価格も約26,000円と手頃で、これはちょっと試してみたくなる…そんな第一印象だった。

VOX MV50 Rock:どんな機材?

出典:VOX
VOX MV50 Rockは、VOXがリリースした超小型のギターアンプヘッドシリーズ「MV50」のひとつで、その名の通り“ロック”に最適化されたチューニングが施されているモデルです。
Nutubeと呼ばれる次世代真空管を搭載しつつ、重量はたったの450g。コンパクトながらも最大50Wの出力を誇り、ライブ使用にも耐えうるパワーを備えています。
シンプルな3ノブ操作(ゲイン、トーン、ボリューム)と、1チャンネル仕様の割り切った設計が特徴。ラインアウトやヘッドフォンアウト、EQスイッチなども装備し、自宅練習から宅録、小規模ライブまで幅広く対応できる“実用派ミニアンプ”です。
また、同シリーズには「Clean」や「AC」「High Gain」などのバリエーションも存在し、それぞれ音の方向性が異なるため、自分のスタイルに合わせた選択も可能です。
VOX MV50 Rock:Nutubeとは…次世代真空管の実力

出典:korgnutube
Nutube(ニューチューブ)は、日本のノリタケ伊勢電子とKORGが共同開発した次世代真空管テクノロジー。従来の真空管と比べ、以下のような特長を持っている。
- 超小型・省電力:従来の真空管の約30%以下のサイズ、消費電力は2%程度。
- 真空管的な特性:倍音の出方や歪み方に真空管らしさを持ち、アナログ的な反応性もある。
- 設計自由度の向上:軽量・薄型で、コンパクトなアンプやペダルへの内蔵が可能に。
MV50シリーズではこのNutubeがプリアンプ部に使われており、クラスDのパワーアンプと組み合わせることで、軽量ながらもしっかりとした音圧とニュアンスが得られる設計になっている。
こんな身なりでもれっきとした真空管なんです。そう言いたくなるほど、Nutubeはその見た目からは想像できないサウンドパフォーマンスを発揮してくれる。
特定のヴィンテージ真空管を模倣するのではなく、「現代のギタリストにとっての真空管らしさ」を追求したのも特徴的。今後Nutubeはエフェクターやハイエンドオーディオ機器などへの応用も期待されており、注目の技術となっている。
実際にVOXのValvenergyシリーズや、KORG Nu:Tekt OD-Sなど、Nutubeを搭載したエフェクターもすでにいくつか市場に登場しており、アンプ以外の分野でもその存在感を強めつつある。
VOX MV50 Rock:スペックについて
- 出力:50W(4Ω)、25W(8Ω)、12.5W(16Ω)
- サイズ・重量:135(幅)×75(奥行)×100(高さ)mm、約450g
- パワーアンプ:クラスD
- プリアンプ:Nutube搭載のアナログ回路
- コントロール:ゲイン、トーン、ボリュームの3ノブ構成
- チャンネル:シングルチャンネル
- 電源:ACアダプタ DC19V
- EQスイッチ:Flat / Deep(中低域のキャラクター変更)
- 入力端子:input x1 (センドリターンなし)
- 出力端子:スピーカーアウト、ライン/ヘッドフォンアウト(キャビシミュ付き)
- その他:スタンバイスイッチ、Ecoモード(無音で15分経過すると自動オフ)
クラスDのパワーアンプを使用
MV50 Rockの出力段には、クラスDのパワーアンプが採用されています。
クラスDとは、“省エネでコンパクトなアンプ方式”のこと。たとえばマーシャルのような伝統的な真空管アンプは、大きくて重く、発熱も多いため、持ち運びや設置にはそれなりの覚悟が必要です。
一方、クラスDアンプは非常に高効率で、同じ出力でも小型・軽量で熱も少ないのが特長。近年ではモバイルスピーカーやデジタルオーディオ機器にも広く採用されており、省エネ性能に優れています。
MV50シリーズがこのサイズで50Wもの出力を実現できているのも、まさにこのクラスDの技術あってこそ。つまり、MV50がここまで小さくできたのは、クラスDパワーアンプのおかげなんです。
また、発熱が少ないことでファンレス設計が可能となり、自宅録音や静かな練習環境にも適しています。サウンド面ではやや“冷たい”印象を持たれることもありますが、Nutubeとの組み合わせにより、アナログらしい反応や温かみがしっかり補完されています。
出力は50W
MV50 Rockは、見た目からは想像できないほどの出力性能を持っています。最大出力は50W(4Ω接続時)で、小規模ライブであれば十分すぎるほどの音量が確保できます。しかもこのサイズで50Wというのが最大の驚きポイントです。
出力は接続するキャビネットのインピーダンスによって自動で調整され、4Ωで50W、8Ωで25W、16Ωで12.5Wという仕様。特別な設定なしに、キャビに合わせて使えるのも手軽で便利です。
たとえばリハスタに置いてあるような8Ωのキャビネットでもしっかり鳴らすことができ、自宅では16Ωのコンパクトキャビに接続して程よい音量で使うことも可能。状況に応じて自然に出力が変わるのは、実はとても親切な設計と言えるでしょう。
本体のサイズについて
MV50 Rockの魅力のひとつは、なんといってもそのサイズ感。およそ手のひらサイズで、重量もわずか450g。見た目はまるでエフェクターのようですが、れっきとした50W出力のアンプヘッドです。
このコンパクトさは、持ち運びのしやすさや自宅での省スペース性に直結します。ギグバッグのポケットに入れても邪魔にならず、リハスタへの移動や自宅録音環境にもスマートに対応してくれます。
比較対象として、たとえばマーシャルのJCM800ヘッド(約20kg)を思い浮かべてみると、その差は歴然。もちろん大型ヘッドには大型なりの魅力がありますが、「ここまで小さくなっても音に妥協なし」というMV50 Rockの存在は、現代のプレイヤーにとって非常に頼もしい選択肢です。
↓マーシャルのキャビネットに乗せてみてもその小ささがわかると思います。

↓マーシャルヘッドアンプと横に並べても一目瞭然。これで出力50Wの真空管アンプと言われると目玉が飛び出ますね。

チャンネルは1chのみ
MV50 Rockは、シングルチャンネル仕様という非常にシンプルな設計が特徴です。クリーンと歪みを瞬時に切り替えることはできず、ひとつのチャンネルで音作りを完結するスタイルになります。
そのため、クリーンサウンドとドライブサウンドを使い分けたい場合は、ギター側のボリューム操作や歪み系ペダルの併用が必要になります。柔軟性という面では不利ですが、逆に言えば「一つの音に集中できる設計」とも言えるでしょう。
ライブでも“常に歪み前提”のスタイルならこの1ch仕様でも十分に機能しますし、シンプルな操作体系は初心者にも扱いやすいメリットがあります。
電源はACアダプタ
MV50 RockはACアダプタ駆動式のアンプで、コンセントから電源を取るタイプです。電池駆動には対応しておらず、ライブやスタジオでは電源の確保が前提となります。
ただし欠点としてよく挙げられるのが、このACアダプタの大きさ。本体が非常にコンパクトであるがゆえに、アダプタのサイズが相対的に目立ち、「本体よりもアダプタのほうがかさばる」と感じる人も多いようです。実際、レビューでも「アダプタがでかいのが惜しい」という声は頻繁に見られます。
とはいえ、これも高出力アンプとしての必要条件と考えれば納得の範囲。持ち運び時はアダプタごとケースに入れておくと安心です。

スピーカーアウト、ライン/ヘッドフォンアウト切り替え可能
MV50 Rockは、背面にスピーカーアウト端子とライン/ヘッドフォンアウト端子を備えており、状況に応じた柔軟な出力方法が可能です。
スピーカーアウトは4Ω/8Ω/16Ωに対応しており、さまざまなキャビネットに接続可能。ライブやリハスタなど、実際のスピーカーで鳴らしたい場面でもしっかり対応できます。
一方、ライン/ヘッドフォンアウトはキャビネットシミュレーター付きで、自宅練習や宅録時に便利です。ここで面白いのが、ヘッドフォンジャックに「半刺し(浅く挿す)」することで、ヘッドフォンアウトではなくラインアウトとして動作するという仕様。見落とされがちですが、録音用途ではこの“半刺しラインアウト”が重宝します。
コンパクトな筐体ながらも、実使用に必要な出力手段がきちんと用意されている──MV50 Rockの“抜け目のなさ”を感じさせるポイントのひとつです。

出典:VOX
センドリターンは無し
MV50 Rockにはエフェクトループ(センドリターン)は搭載されていません。空間系エフェクター(ディレイやリバーブなど)を使いたい場合は、ギターとアンプの間に接続する必要があります。これは多くのミニアンプに共通する仕様でもあります。
とはいえ、「MV50にセンドリターンがあればもっと良かった」という声は多く、ネット上ではMOD(改造)によって無理やりセンドリターン機能を追加する猛者の存在も報告されています。あくまで自己責任になりますが、それだけニーズがある機能だという証拠でもあるでしょう。
実用面では、ディレイやリバーブを“かけ録り”してもそれなりに良好な結果が得られるため、大きな問題になる場面は少ないかもしれません。ただし、空間系にこだわるプレイヤーには、少し不満の残るポイントです。
VOX MV50 Rock:サウンドチェック

出典:VOX
MV50 Rockを実際に弾いてみてまず感じたのは、「このサイズでここまでの音が出せるのか」という驚きでした。特に歪みサウンドの密度と押し出し感には、想像以上の迫力があります。
クリーンはどれくらい出せるか?
ゲインとボリュームを絞ることで、比較的クリアなクリーントーンも得られます。ただし、あくまで“クリーン寄り”といった印象で、真空管アンプのような澄んだ抜け感とは少し方向性が違います。軽めのカッティングやアルペジオには使えますが、完全なクリーン専用機としてはやや物足りなさを感じるかもしれません。
歪みの質感は?
MV50 Rockの真骨頂は、なんといってもドライブサウンド。中音域がしっかり出ていて、弾いた瞬間にギュッと詰まったような飽和感を感じます。トーンを上げると輪郭がくっきりとし、ソロでも抜けてきますし、下げるとローがふくらみ、ややドゥーミーな質感にも持っていけます。
サイズ感からは想像できないようなパンチのある音で、小規模なライブハウスならこの一台で完結できると感じました。
ピッキングへの反応性・レスポンス
Nutubeのおかげか、ピッキングの強弱による音の表情変化はとても自然です。軽く弾けばクリーンに寄り、強く弾けば歪む──この反応のよさは、まさに真空管アンプに通じる感覚。小型アンプにありがちな「反応が遅い」「ニュアンスが出にくい」といった不満はありませんでした。
キャビシミュ付きラインアウトの音質
自宅でDAWに録音してみたところ、キャビネットシミュレーター付きのラインアウトは思った以上に使える印象でした。もちろん、実際のスピーカーを鳴らしたときほどの立体感や空気感はないものの、十分に“それっぽい”ロックサウンドが録れるので、宅録用のトラック制作には問題なし。
また、ヘッドフォンジャックを“半刺し”にすることでラインアウトとして使える仕様は地味に便利。マイク録りができない環境でもしっかり活用できます。
総評:ロックするには十分すぎるサウンド
MV50 Rockは、その名の通り“ロックするためのアンプ”だと感じました。クリーンにこだわる人には向かないかもしれませんが、クラシックロックやハードロック、そして重めのサウンドを求めるプレイヤーにはピッタリ。
価格・サイズ・機能のバランスを考えると、「持ち運べるロックアンプ」としては完成度が非常に高いです。気軽に持ち運べて、でも音はしっかり本格的──そんなアンプを探している人にこそ、ぜひ試してみてほしい一台です。
VOX MV50 Rock:惜しい点・気になる部分
MV50 Rockには非常に多くの魅力がありますが、細かく見ていくと気になる点もいくつか存在します。ここでは実際に使って感じた“惜しい部分”をいくつか挙げてみます。
- エフェクトループがない:やはり一番大きいのはセンドリターン非搭載である点。空間系エフェクトを後段に入れたい派には物足りなさがあります。実際、ネット上では自作MODでセンドリターンを追加してしまう猛者もいるほどです。
- EQスイッチの効きが弱い:背面にあるEQ(Deep/Flat)スイッチですが、実際に切り替えてみても音の変化はごくわずか。「これは本当に意味があるのか?」と思ってしまうほどで、正直言って活用頻度は低めです。
- 音が“密すぎる”と感じることがある:歪みの質感は素晴らしいのですが、時折中低域が飽和しすぎて、アンサンブルの中で抜けづらく感じる場面がありました。単体では気持ちいいのに、バンドで合わせたときに“もう少し抜けが欲しいな”と感じることも。
- チャンネル切替ができない:1チャンネル仕様ゆえ、クリーンと歪みの切替はペダルで行う必要があります。シンプルさを優先した設計ですが、ライブで瞬時に音色を切り替えたい人には工夫が必要です。
VOX MV50 Rock:こんな人におすすめ
- 小型軽量で“本物っぽい音”を求める人
- 自宅・宅録・リハ・ライブを1台でカバーしたい人
- Friedman的なロックサウンドを小型で再現したい人
- クリーントーンより歪み重視なプレイヤー
VOX MV50 Rock:まとめ

出典:VOX
小型の概念を変える“本気のロックアンプ”
VOX MV50 Rockは、まさに“小さな巨人”と呼ぶにふさわしい一台でした。真空管らしいピッキングへの追従性と、ギュッと密度の高いドライブサウンド。サイズや価格からは想像できないほど、本格的なロックトーンを鳴らしてくれます。
もちろん、チャンネル切り替えの自由度やセンドリターンの非搭載といった制限はありますが、それも割り切って使えば、むしろこのアンプのシンプルさや潔さとして受け入れられる部分です。
特に、「自宅練習もしたいし、たまにライブもやる」「宅録にも対応できる機材がいい」という人には、これほどマッチするアンプはなかなか見当たりません。
サブ機としてではなく、“メインで使えるミニアンプ”。そんな新しいカテゴリーを切り拓いた一台だと思います。
「音で妥協したくないけど、省スペースで運用したい」──そんな思いを持ったプレイヤーにこそ、MV50 Rockは応えてくれるはずです。

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